ご両親から受け継いだ梨園を2代目として管理している笠井宏光さん。東日本大震災当時、原発事故に伴う除染のために園内の果樹はすべて廃棄となってしまいました。しかし、浪江町の梨を特産品として残したいという思いから、苗を少しずつ購入し、出荷に向けて再度生産を始めました。今では、夏～秋まで収穫時期が少しづつ異なる複数品種の梨を育てており、浪江の豊かな自然の中で育った甘く、みずみずしい梨を町内外へと出荷しています。

生産量が少なく、非常に希少な柑橘類「じゃばら」と「ゆず（多田錦）」を育てる佐々木茂夫さん。自身が悩む花粉症に効く果物、という話を聞いて育てることを決めたじゃばらであるそうで、寒冷な東北地方では生産が難しいと言われていますが、次世代での安定生産を見据えて日々試行錯誤をしながら生産をしています。

県を代表する祭りである「相馬野馬追」に代々参加する、歴史の長い吉田家の吉田さやかさん。東日本大震災を機に一度は故郷・浪江町を離れましたが、「ご先祖様が守ってきた土地と家を自分の代で絶やすわけにはいかない」との強い思いを胸に、再びこの地で農業を始めることを決意しました。
吉田さんが着目したのは、1000年以上続くこの土地の伝統文化「相馬野馬追」。お祭りに参加する馬たちの馬糞（ばふん）で特別な堆肥を作り、それを使ってにんにくを育てるという、地域に根ざしたユニークな農業をスタートさせました。
こうして生まれたのが、ブランドにんにく「サムライガーリック」です。浪江町の伝統と吉田さんの故郷への熱い想いが詰まった、力強く風味豊かなにんにくを、今では全国へ届けています。

浪江町の沿岸部である請戸地区で酒造りを続けてきた「鈴木酒造店」の5代目である鈴木大介さん。東日本大震災の津波によって、浪江町沿岸にあった酒蔵は、歴史ある建物や仕込み中のお酒もろとも全て流されてしまいました。

しかし、浪江のお酒を待っている人がたくさんいることに励まされ、山形県長井市の後継者不足に悩んでいた酒蔵を借り受けて酒造りを再開。そして、震災から10年の時を経て、ついに故郷・浪江町での酒造りを再開しました。

新設した「浪江蔵」では、浪江の水と米を使い、漁師町で愛された銘柄「磐城壽（いわきことぶき）」をはじめとする、正真正銘の故郷の酒を再び醸し、多くの人々に届けています。

1897年、浪江町で創業され、124年の歴史を持つ老舗企業、柴栄水産。市場では「いちます」の屋号で親しまれてきた水産業者で、品質の良い浪江の魚を取り扱い、水産物の仲卸業のほか、直営店舗や和食レストランなど多角的な経営に乗り出していました。しかし、東日本大震災により、事務所や加工場、店舗などは甚大な被害を受け、休業を余儀なくされました。他地域での営業再開の話も上がっていましたが、浪江の水産業の品質を落としたくない、と請戸地域での再会を強く思い続け、2020年に請戸に工場が完成。請戸漁港での初セリとともに事業を再開し、現在まで請戸ものの魅力を発信し続けています。

2021年、日揮グループが福島県浪江町で立ち上げた陸上養殖スタートアップ、かもめミライ水産。完全閉鎖循環式（RAS）の水槽でマサバを育て、AIとセンサーで水質を精密管理し、寄生虫リスクの低い生食向けブランド「福の鯖」を届けることを目指します。2024年4月には東日本最大規模の「陸上養殖イノベーションセンター」が完成し、2025年4月10日に道の駅なみえで初出荷式を実施。エンジニアリング由来の再現性ある生産で食の安全と環境保全の両立を図り、浪江発の新産業として復興に貢献する――それが同社の核となる思いです。

震災前は主に米を多く育てていた阿部仁一さん。玉ねぎの生産は今年で9年目となり、現在は浪江町の玉ねぎ新ブランド「浜の輝」を育てています。種まきをした当初は、害獣や雑草の被害に悩まされましたが、ひとつひとつ対策を施し、生で食べても、もちろん料理に使っても甘くジューシーに味わえる高品質な浜の輝を生産しています。